自動車産業は「モノづくり立国、日本」を代表する主要産業であり、自動車産業が風邪を引けば、日本の経済全体に波及するほど、その影響は計り知れない。自動車産業はこれからも日本のエンジニアリングを牽引するフラッグシップとして世界で戦えるのか?そのためには何が必要なのか?

リーマン・ショック以降、日本の自動車産業の歩みを振り返りつつ、世界的に見た「Japanブランド」の今の立ち位置を、『ベストカー』など専門誌で活躍するフリージャーナリストの永田恵一氏に寄稿していただきました。


日本の自動車業界の将来

どんな業界にも波はある。その中でも日本の基幹産業の1つである自動車業界は基盤が強いこともあり、波がある中でも比較的浮き沈みの少ない業界だ。そういった前提で見ても、現在の日本の自動車業界の将来は停滞期を抜け上り坂にあると言える。

具体的に状況を解説するため日本の自動車業界の動向を6年ほど前から振り返ってみよう。そのために覚えて欲しいのが「車の開発には例外も多々あるが、大よそ3年掛かる」ということだ。

今から6年前の2008年というと記憶から薄れつつあるが、世界的な不景気の引き金となったリーマンショックが起きた年だ。リーマンショック直後の日本の自動車業界の大きな動きとしては需要の急激な減少による生産調整、それだけで大規模な予算を削減できるF1やWRC(世界ラリー選手権)といった世界規模でのモータースポーツからの撤退や休止程度であった。だが、モータースポーツには市販車への技術的なフィードバックやメーカーのイメージ向上というプロモーション効果、「自動車メーカーの大企業の広告費と考えればモータースポーツに使うお金は決して高くはない」という見方もできる。そういったことも考慮すると程度問題はあるにせよこういった決断が全面的に正しいかというと、そうとは言い切れない部分も大きかった。

翌年の2009年に発売する日本車に関しては、車の開発がすでに最終段階に差し掛かっていたことがいい方に大きく影響し、比較的景気が良かった2006年あたりから開発されていた車が予定通り発売された。そのため車そのものがそれなりに魅力的だった上に、不景気を考慮し内容の割に価格もリーズナブルなものが多かった。具体的な車名としては低価格化も含めハイブリッドカーの市民権獲得に大きく貢献し、現在も販売されているトヨタのプリウスなどが挙げられる。

しかし、2010年から2012年まではリーマンショックによる不景気を悪い意味で反映した開発費の削減、低価格化や燃費の向上ばかりを目指した日本車が多く登場した。 車は「人や荷物を載せて移動するための道具」という役割が存在の土台にあるため、低価格化や燃費の向上は非常に重要な開発テーマである。しかし、その反面で100万円を超える耐久消費財であるため、そういった要素だけで魅力のない車に強い購買欲は湧きにくい。また車が世の中で数少ない夢やいろいろな楽しさ、生活を変えてくれる可能性を持つ商品であることを考えると、潤いに欠ける時期であったことは否めなかった。

同時期の海外のメーカーはというと、リーマンショックのダメージの大きかったのは日本メーカーと同じだった。だが、欧米メーカーは日本車のハイブリッドカーに対抗する燃費向上技術としてダウンサイジングターボと呼ばれる排気量の小さいエンジンに排気量以上のパワーを出すためのデバイスであるターボやスーパーチャージャーといった過給機を組み合わせ、パワーはそのままに小排気量化に加えエンジンそのものの軽量化なども含めた燃費の向上に熱心に取り組んだ。さらに欧州メーカーは以前から熱心だったディーゼルエンジンのクリーン化やバリエーションの拡大なども行っていた。

また、最近車を購入する際に燃費と同じくらい重要な要素となっている安全装備である追突軽減ブレーキや運転支援システムなども、2010年頃はスバルのアイサイトが世界最先端であり今でも世界トップクラスにある。その一方でボルボは運転支援システムの性能向上に加え、万一人を跳ねてしまった場合のダメージを軽減する歩行者エアバッグを実用化するなど、安全面での追い上げも急速であった。


低燃費、低価格化に大きく舵をきった「Japanブランド」が支払った代償とは?

結果日本にいると分かりにくいことだが、日本の自動車メーカーは海外市場、特に保守的なお国柄でることもありよそ者がなかなか受け入れられないと言われている上に、走行スピードに高さゆえに車に対しても厳しい使用条件での高い性能が求められる欧州市場でシェアを落としてしまった。このことは日本市場でも車に関心のある層が選ぶモデルや高級車、高額車のシェアという形で現れ、日本において輸入車の販売はかなり増加した。さらに欧州市場ほど性能要求が高くない北米や新興国でも、急速に力を着けてきた韓国車の猛追は頭の痛い要素であった。簡単に言うと、世界の自動車市場で存在感が薄くなってしまったのだ。

しかしここ1、2年日本メーカーもそういった状況を見ながら、景気の上向きも伴い日本車も欧州車に盛り込まれた新技術も投入し、魅力ある車が増えてきた。具体的には市販車で言えば今年から本格化するダウンサイジングターボ車の登場、マツダが注目株となっているディーゼルエンジンの拡充、安全装備の急速な性能向上、トヨタ86&スバルBRZやダイハツコペンといったスポーツカーの復活が挙げられる。市販車以外の部分でもホンダのF1復帰に代表される世界的な規模でのモータースポーツへの参戦など、全体的に日本の自動車業界には活気が戻ってきている。

日本の自動業界は現在の前向きな姿勢を崩しさえしなければ、世界の自動車市場でも一目を置かれる存在であり続けられるだろう。

2/2へ続く